持ち家があれば老後の住居費はかからない——この前提で取り崩し計画を立てると、思わぬ出費に対応できなくなるケースがあります。
固定資産税・修繕費・リフォーム費用は、持ち家である限り継続的に発生します。屋根や給湯器の交換など、まとまった出費が60〜70代に集中することも珍しくありません。賃貸と違って「家賃ゼロ」でも、住居関連の支出がゼロにはならない点を見落とすと、NISAの取り崩し計画が狂います。
この記事では、持ち家世帯が老後に直面しやすい住居コストを踏まえた上で、NISAの取り崩し戦略をどう設計すればいいかを解説します。
持ち家があっても老後にかかる実際の生活費
持ち家があることで住居費負担は大幅に軽減されます。総務省の家計調査(2023年)では、65歳以上の無職夫婦世帯の平均消費支出は月約23万円ですが、このうち住居費は約1.4万円となっています。これは主に修繕費や固定資産税などの費用です。
賃貸世帯の住居費は平均6〜8万円かかるため、持ち家があることで月5〜7万円程度の出費を抑えられます。ただし、持ち家特有の出費も考慮する必要があります。
持ち家特有のランニングコスト
- 固定資産税:年間10〜15万円程度(月換算約1万円)
- 大規模修繕費:10〜20年に一度、100〜300万円
- 設備交換費:給湯器、エアコンなどで10〜15年ごとに数十万円
- 介護リフォーム費:バリアフリー化で50〜200万円
これらを月割りすると、実質的な住居関連費用は月2〜3万円程度になります。
| 費目 | 月額 |
|---|---|
| 食費・日用品 | 6〜7万円 |
| 光熱費 | 2〜3万円 |
| 住居関連費(税金・修繕積立) | 2〜3万円 |
| 医療・介護費 | 2〜4万円 |
| その他(通信・娯楽など) | 4〜6万円 |
| 合計 | 16〜23万円 |
年金だけで足りない部分をNISAで補う基本戦略
厚生労働省のデータ(2023年)によると、厚生年金を受給する夫婦の平均受給額は月約22万円です。先ほどの生活費16〜23万円と比較すると、年金だけでほぼカバーできる可能性があります。
しかし、これは平均値であり、実際の年金受給額は人によって大きく異なります。また、以下のような状況では追加資金が必要になります。
追加資金が必要になるケース
なぜ年金だけでは不安になるのか。その背景には、老後生活の「見えない支出」があります。医療費や介護費は予測が困難ですし、インフレが進めば実質的な購買力は低下します。また、60〜65歳の年金受給前の空白期間は、多くの人が見落としがちな盲点です。
1. 年金受給開始前の空白期間(60〜65歳)
2. ゆとりある老後生活のための上乗せ資金
3. 医療・介護費の増加への備え
4. インフレ対応
| 世帯年金額 | 月の不足額 | NISAからの補填目安 |
|---|---|---|
| 月15万円 | 約3〜8万円 | 月5〜7万円 |
| 月20万円 | 約0〜3万円 | 月1〜3万円 |
| 月25万円 | 余剰あり | 臨時支出のみ |
いつから取り崩しを始めるべきか
持ち家がある場合の取り崩し開始時期は、年金受給までの空白期間をどう乗り越えるかがカギになります。多くの人が悩むのは「退職金があるうちはNISAに手をつけたくない」という心理と、「運用期間を長くして非課税メリットを最大化したい」という合理的判断の間で揺れることです。
パターン1:定年退職と同時(60〜62歳)
適用する人:年金受給まで5年程度の空白期間がある人
この場合、退職金とNISAのバランスを考える必要があります。基本戦略は以下の通りです:
1. 生活費は退職金の安全資産部分(定期預金など)から捻出
2. NISAは運用を継続し、必要最小限のみ取り崩し
3. 年金受給開始後にNISA取り崩しのメイン利用を開始
パターン2:年金受給開始と同時(65歳)
適用する人:退職金や他の資産で年金受給まで生活できる人
最も理想的なパターンです。年金だけでは足りない部分をNISAで補填する形になります。月1〜7万円程度の取り崩しなら、資産寿命への影響も限定的です。
パターン3:年金受給開始から数年後(67〜70歳)
適用する人:年金だけで当面の生活ができる人
NISAの運用期間を最大化できるため、資産寿命の観点では最も有利です。ただし、認知機能低下のリスクも考慮して70歳頃までには取り崩し方針を決めておくのが安全です。
複数の資産がある場合の取り崩す順番
持ち家がある人の多くは、NISA以外にも複数の資産を持っています。なぜ取り崩し順序が重要なのか。それは、同じ金額を取り崩すにしても、税制上の扱いが異なるため、順序を間違えると手取り額が大きく変わってしまうからです。
税制面を考慮した効率的な取り崩し順序は以下の通りです:
1. 特定口座の含み損がある商品
理由:損益通算で税負担を軽減できるため
含み損がある商品を売却して損失を確定させ、その年の他の利益と相殺することで、全体の税負担を減らせます。
2. 預貯金・定期預金
理由:インフレに弱く、運用益も期待できないため
日本銀行の預金金利統計を見ても、普通預金金利は0.001%程度です。現金は「確実だが増えない」資産であり、インフレが進む中では実質的に目減りするリスクがあります。
3. 個人年金保険(据え置き期間中のもの)
理由:予定利率が低く、NISAの運用益に劣る可能性が高いため
昔に加入した個人年金保険は、現在の低金利環境では相対的に魅力が低下しています。
4. iDeCo(60歳以降)
理由:受給時課税があるため、調整が必要
iDeCoは受給時に退職所得控除や公的年金等控除が適用されますが、年金収入と合わせて課税所得をコントロールしながら受給する必要があります。
5. 特定口座の含み益がある商品
理由:約20%の課税があるため
利益に対して約20%の税金がかかりますが、NISAよりは先に取り崩すのが基本です。
6. NISA(最後に取り崩し)
理由:非課税のメリットを最大化するため
NISAは運用益が非課税のため、できるだけ運用期間を長くして最大の効果を得ることが重要です。
持ち家の人が注意すべき将来的なリスク
持ち家があることは大きなメリットですが、以下のリスクも考慮してNISA取り崩し戦略を立てる必要があります。
リスク1:住み替えの必要性
なぜ住み替えが必要になるのか。加齢とともに身体機能が低下すると、現在問題なく住んでいる家でも生活が困難になることがあるからです。
- 階段の上り下りが困難:2階建ての場合
- 庭の管理が負担:戸建ての場合
- 買い物・通院のアクセス:郊外の場合
住み替えが必要になった場合、売却価格によってはまとまった費用が必要になります。
リスク2:大規模修繕費の発生
| 修繕項目 | 時期の目安 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 屋根の塗装・補修 | 10〜15年 | 50〜150万円 |
| 外壁の塗装・補修 | 10〜15年 | 80〜200万円 |
| 設備の全面交換 | 15〜20年 | 100〜300万円 |
リスク3:介護に伴う住環境整備
厚生労働省の介護関連統計によると、要介護状態になった場合のバリアフリー化費用は以下の通りです:
- 手すりの設置:10〜30万円
- 段差解消:20〜50万円
- 浴室・トイレ改修:50〜100万円
これらのリスクに備えて、NISAの一部は「緊急時資金」として確保しておくことが重要です。目安として、NISAの10〜20%程度は比較的安全な資産(債券ファンドなど)で保有し、いざという時にすぐに現金化できるようにしておくと安心です。
まとめ:持ち家がある人のNISA取り崩し戦略
- 持ち家があることで月5〜7万円の住居費を節約でき、老後の必要資金を大幅に圧縮できる
- 年金で足りない月1〜7万円程度をNISAで補填するのが基本戦略
- 取り崩し開始は年金受給開始(65歳)に合わせるのが理想的
- 複数資産がある場合は預貯金→特定口座→iDeCo→NISAの順番で取り崩す
- 大規模修繕費や介護リフォーム費に備えて、NISAの10〜20%程度は安全資産で確保しておく
今日できるアクション:自宅の築年数と今後10年間で必要になりそうな修繕項目をリストアップし、概算費用を調べてみてください。リフォーム会社のサイトや住宅関連の情報サイトで、大まかな費用感を把握できます(30分程度の作業です)。
私自身、持ち家があることで住む場所の心配がない分、NISAの取り崩しも慌てずに市況を見ながら進められると実感しています。

54歳・メーカー経理勤務。つみたてNISAから積み立てを続け、52歳の人間ドックを機に出口戦略の研究を開始。金融庁・厚労省・国税庁などの公開資料をもとに、定年前後の会社員目線で出口戦略を発信しています。投資助言ではなく、同じ立場で悩む方への情報整理が目的です。


コメント