「いつから取り崩せばいいか」——これ、意外と誰も教えてくれないんですよね。始める方法は山ほど書いてあっても、終わり方の話はどこを探しても出てこない。私自身も定年まで数年というタイミングになって、初めて焦りました。今回は年齢別・状況別に、取り崩しの「始め時」を具体的な数字で整理します。
新NISAの取り崩しはいつでも始められる
まず大前提として、新NISAに「何歳から取り崩さなければならない」という決まりは一切ありません。
旧NISAでは非課税期間が一般NISAで5年、つみたてNISAで20年と決まっていたため、期限を意識する必要がありました。しかし新NISAでは非課税保有期間が無期限になったため、自分のペースで取り崩しを始められます。
つまり取り崩しのタイミングは「完全に自分で決められる」ということです。だからこそ、かえって「いつ始めればいいかわからない」という悩みが生まれます。
取り崩しを始めるべき3つのタイミング
① 定年退職したとき
給与収入がなくなり、年金だけでは生活費が不足する場合に取り崩しを開始するケースが最も多いです。再雇用制度を利用して収入が続く間は、焦って取り崩す必要はありません。収入がある間はNISAをそのまま運用し続けた方が、複利の恩恵を長く受けられます。
② 生活費が年金だけでは足りなくなったとき
総務省の家計調査(2023年)によると、65歳以上の無職夫婦世帯の平均消費支出は月約23万円です。厚生年金の平均受給額は夫婦合計で月約22〜23万円程度とされています。
つまり「平均的な生活費=平均的な年金額」に近い水準です。しかし持ち家でない場合の家賃、医療費の増加、旅行や趣味への支出を考えると、多くの方が毎月数万円の不足を感じます。この不足が生じたタイミングが、取り崩し開始のサインです。
③ 資産が目標額に達したとき
「2,000万円貯まったら取り崩し開始」のように目標額を決めている方は、達成時点が取り崩し開始のサインです。目標額を設定する際は「何歳まで何円使えれば十分か」という逆算が重要です。
年齢別・取り崩し開始の考え方
50代前半:今は積立に集中する時期
まだ取り崩しを考える必要はありません。ただしこの時期に「自分の年金見込み額」と「退職後の生活費」を把握しておくことが、後の出口戦略を大きく楽にします。ねんきんネットで65歳時点の年金見込み額を確認し、現在の生活費を月単位で把握しておくことが第一歩です。
50代後半(55〜59歳):出口を設計し始める時期
定年まであと5〜10年という段階です。この時期に「退職後の毎月の不足額」を計算しておきましょう。たとえば生活費が月25万円で年金が月15万円なら、毎月10万円の不足が生じます。2,000万円の資産があれば年3%運用で約24年持ちますが、この計算を50代のうちに知っておくことが大切です。
60歳:取り崩し開始の最有力タイミング
多くの方にとって60歳が取り崩し開始の最有力タイミングです。ただし「65歳まで年金を繰り下げる」選択をする場合、60〜64歳の5年間は年金なしで生活することになります。月10万円ずつ取り崩すとすると5年間で600万円が必要です。この分を現金か特定口座でまかなえるか、事前に確認しておきましょう。
65歳:年金と組み合わせる戦略に切り替える
65歳からは「年金でまかなえない不足分だけをNISAから取り崩す」という戦略に切り替えます。年金繰り下げで月21万円になれば、生活費25万円に対する取り崩し額は月4万円まで減ります。月10万円との差は資産寿命に換算すると10年以上になります。
70歳以降:取り崩しペースを見直す
厚生労働省(2023年)のデータでは、70歳男性の平均余命は約15年、女性は約19年です。70歳時点で資産が残っている場合、男性で85歳・女性で89歳まで持たせる計算を立て直すことが現実的です。医療費・介護費用の増加も見越して、ペースを見直しましょう。
取り崩しを急いではいけない2つのケース
まだ収入がある場合:60歳時点で2,000万円の資産があり、65歳まで取り崩さずに年3%で運用できれば、65歳時点では約2,319万円になります。この319万円の差が老後の安心感に直結します。
生活防衛資金が不十分な場合:月25万円の生活費なら150〜300万円を現金で確保してからNISAの取り崩しを始めてください。この現金がない状態で取り崩しを始めると、急な出費が発生したとき相場が悪いタイミングでも売却せざるを得なくなります。
まとめ:自分に合ったタイミングを見極めよう
- 新NISAの取り崩しはいつでも始められる(非課税期間は無期限)
- 主なタイミングは「定年退職」「年金だけでは生活費が不足するとき」「目標額達成時」の3つ
- 収入がある間は取り崩しを急がない。60歳時点の2,000万円が65歳まで運用で約2,319万円になる
- 65歳まで年金を繰り下げる場合、60〜64歳の5年分(月10万円なら約600万円)を現金や特定口座で確保しておく
- 生活防衛資金(生活費の6〜12ヶ月分)を先に確保してからNISAの取り崩しを始める
今日すぐできることは「ねんきんネットで65歳時点の年金見込み額を確認すること」です。この数字が出るだけで、いつから・いくら取り崩すべきかの輪郭が見えてきます。
私自身は「年金が始まる65歳まで取り崩さない」と決めたことで、かえって気持ちが楽になりました。

54歳・会社員。旧NISAから積み立てを続け、気づけば定年まであと数年というタイミングに。いざ取り崩しを考えた時に「出口の情報がない」と気づく。金融庁や証券会社の公開資料をもとに、定年前後の普通の会社員目線で出口戦略を発信しています。

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