月にいくら取り崩すか——これが決まらないと、老後の生活設計が全部止まってしまいます。多く取りすぎれば資産が早く底をつく、少なすぎれば生活が苦しい。でも「正解の金額」は人によって違いすぎて、どこを調べても自分のケースに当てはまらないのが本音だと思います。今回は自分の数字で考えるための手順を整理します。
取り崩し額はどうやって決めるのか
取り崩し額の基本的な考え方はシンプルです。
毎月の生活費 − 毎月の年金受給額 = 毎月の取り崩し額
この式で出た金額が、NISAから補填すべき「月々の不足分」になります。ただし正解は人によって大きく異なります。生活費が月20万円の人と月30万円の人では必要な取り崩し額が全く違います。大切なのは「自分の数字」を把握することです。
ステップ①:月々の生活費を把握する
まず退職後の月々の生活費を計算します。現在の家計簿や銀行の引き落とし履歴を参考に、食費・外食費、住居費、光熱費・通信費、医療費・薬代、交際費・趣味・旅行、保険料を合計してみましょう。
退職後は仕事関連の交通費や被服費が減りますが、医療費と旅行・趣味への支出は増える傾向があります。総務省の家計調査(2023年)によると、65歳以上の無職夫婦世帯の平均消費支出は月約23万円です。ただしこれはあくまで平均値です。自分の生活水準に合わせて、少し多めに見積もることをおすすめします。
今日できるアクション:直近3ヶ月の銀行明細を確認して、月平均の支出を計算してみてください。
ステップ②:年金受給額を確認する
次に年金見込み額を確認します。ねんきんネット(マイナンバーカードがあれば今日すぐ確認可能)か、毎年誕生月に届くねんきん定期便で確認できます。夫婦の場合は2人分の年金を合算した金額を使います。
ここで重要なのが、年金をいつから受け取るかという選択です。
| 受給開始年齢 | 増減率 | 月額の目安(標準的なケース) |
|---|---|---|
| 60歳(繰り上げ) | −24% | 約11.4万円 |
| 65歳(標準) | ±0% | 約15万円 |
| 70歳(繰り下げ) | +42% | 約21.3万円 |
65歳受給が月15万円の方が70歳まで繰り下げると、月21.3万円になります。この差は月6.3万円、年間で75.6万円です。70歳以降に長生きするほど、繰り下げの恩恵は大きくなります。
今日できるアクション:ねんきんネットにアクセスして年金見込み額を確認してください。5分でできます。
ステップ③:不足額を計算する
ステップ①とステップ②の数字が出たら、引き算するだけです。
- 生活費25万円・年金15万円のケース → 毎月10万円がNISAからの取り崩し目安
- 生活費20万円・年金18万円のケース → 毎月2万円がNISAからの取り崩し目安
この「毎月の不足額」が小さいほど、資産は長持ちします。
取り崩し額別・資産の持ち期間シミュレーション
資産2,000万円の場合、月々の取り崩し額によって資産寿命がどう変わるかを見てみましょう。
| 月の取り崩し額 | 運用なし | 年3%運用 | 60歳開始の場合 |
|---|---|---|---|
| 月3万円 | 約55年 | 事実上無限 | 115歳まで持つ |
| 月5万円 | 約33年 | 約50年以上 | 93歳まで持つ |
| 月8万円 | 約21年 | 約30年 | 81歳まで持つ |
| 月10万円 | 約17年 | 約24年 | 77〜84歳で底をつく |
| 月15万円 | 約11年 | 約14年 | 71〜74歳で底をつく |
月の取り崩し額が5万円か10万円かで、資産寿命に10年以上の差が出ます。しかし月10万円の取り崩しは「贅沢」ではなく、生活費25万円・年金15万円という決して珍しくない組み合わせで起きます。つまり多くの方が「知らないうちに資産が想定より早く減っていく」リスクを抱えているということです。
取り崩し額を抑えるための3つの工夫
① 年金受給を繰り下げる
65歳→70歳への繰り下げで月約6万円増えます。60代前半は貯蓄や副収入で生活し、NISAには手をつけないまま70歳から増額した年金を受け取る戦略は非常に有効です。ただし繰り下げ中に亡くなった場合は増額分を受け取れないため、健康状態や家族の状況を踏まえて判断してください。
② 固定費を見直す
スマホを格安SIMに変更すると月3,000〜5,000円、不要な保険・サブスクの解約で月1,000〜数万円の節約になります。月1万円の節約でも、年間12万円です。資産2,000万円から月1万円少なく取り崩すだけで、資産寿命は2〜3年延びます。
③ 小さな副収入を作る
月3〜5万円の副収入があるだけで取り崩し額を大幅に減らせます。趣味を活かしたアルバイト、ハンドメイド販売、地域のシルバー人材センターの活用など、無理のない範囲で検討してみましょう。
まとめ:取り崩し額は「自分の数字」で決める
- 取り崩し額の基本は「生活費 − 年金 = 毎月の不足額」
- 3ステップで計算する:生活費の把握 → 年金額の確認 → 不足額の算出
- 月5万円と月10万円では資産寿命に10年以上の差が出る
- 年金繰り下げ・固定費見直し・副収入で取り崩し額を減らす工夫をする
- 運用しながら取り崩すことで資産寿命は大幅に延びる
今日すぐできることは「ねんきんネットで年金見込み額を確認すること」です。この数字が出るだけで、毎月の取り崩し額の目安が見えてきます。老後の安心は、漠然とした不安を「自分の数字」に変えることから始まります。
取り崩し額は一度決めたら終わりではありません。年に一度、実際の生活費と照らし合わせて見直すのが一番現実的だと思っています。

54歳・会社員。旧NISAから積み立てを続け、気づけば定年まであと数年というタイミングに。いざ取り崩しを考えた時に「出口の情報がない」と気づく。金融庁や証券会社の公開資料をもとに、定年前後の普通の会社員目線で出口戦略を発信しています。


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