退職金とNISA、両方あると逆に迷います。「多い方から使えばいいのか」「非課税のNISAを先に使うべきか」——答えは状況によって変わるので、一概には言えない。ただ、判断の基準は決まっています。今回はその基準を整理して、自分のケースに当てはめる方法をお伝えします。
なぜ退職金とNISAの取り崩し順で迷うのか?
多くの方が退職金とNISAの使い分けで迷う理由は、それぞれの性質が全く違うからです。
退職金は確実な現金ですが、預金口座に置いておいても増えることはありません。一方、NISAは運用を続けていれば増える可能性がありますが、必要な時に相場が下がっているかもしれないという不安があります。
さらに複雑にしているのは、多くの方が以下の状況に置かれていることです:
- 年金受給開始まで数年の空白期間がある
- NISAを売るタイミングが全くわからない
- 退職金を運用に回すべきか迷っている
- どちらが税金上有利なのかわからない
実際、全国銀行協会の調査(2023年)によると、退職金を受け取った人の約7割が「資産の使い分けに不安を感じている」と回答しています。
この迷いの背景には、「運用している資産を売ることへの心理的な抵抗」があります。人間の脳は、利益を確定することよりも「まだ伸びるかもしれない」という期待を優先する傾向があるのです(現状維持バイアス)。
今日できるアクション:まず退職金の金額とNISAの評価額を書き出し、現在の資産全体を把握してください。
基本原則:運用資産は最後に崩すのが鉄則
結論から言うと、基本的には「退職金(現金)→NISA」の順番で使うのが正解です。
なぜなら、運用を続けている限りNISAは成長する可能性があるからです。金融庁のデータ(2024年)によると、全世界株式に20年間投資した場合の年平均リターンは約5-7%でした。
具体的な差を見てみましょう:
| 取り崩し順 | 10年後の資産残高(試算) | 備考 |
|---|---|---|
| 退職金→NISA | NISA:約1,200万円 | NISAを10年間運用継続 |
| NISA→退職金 | 現金:約800万円 | NISAを早期に現金化 |
※退職金2,000万円、NISA1,000万円、月20万円の取り崩しを想定、NISA年5%運用として試算
ただし、この鉄則には重要な例外があります。それは「NISAが大きく値上がりしているとき」です。
たとえば、積立元本500万円のNISAが800万円になっている場合、300万円の利益を非課税で確定できます。これを特定口座(通常の証券口座)で実現した場合、約60万円の税金(20.315%)がかかります。
今日できるアクション:お持ちのNISAの「積立元本」と「現在の評価額」を確認し、利益率を計算してみてください。
年金受給開始までの「つなぎ期間」をどう乗り切るか
60歳で定年退職し、65歳で年金受給開始という方にとって、この5年間の「つなぎ期間」が最大の不安要素です。
総務省の家計調査(2023年)では、60-64歳の無職世帯の月平均支出は約25万円です。5年間で必要な金額は以下のようになります:
| 月の生活費 | 5年間の必要額 | 退職金で賄える期間(2,000万円の場合) |
|---|---|---|
| 20万円 | 1,200万円 | 8年4ヶ月 |
| 25万円 | 1,500万円 | 6年8ヶ月 |
| 30万円 | 1,800万円 | 5年6ヶ月 |
このデータを見ると、平均的な退職金(約2,000万円)があれば、年金受給開始まで十分に対応可能です。だからこそ、NISAには手を付けずに運用を続けることができるのです。
しかし、注意すべき点があります。それは「インフレ(物価上昇)」です。日本銀行のデータ(2024年)によると、現在の物価上昇率は年約2%です。つまり、現金で持っている退職金は実質的に目減りしていることになります。
この問題を解決するため、一部の退職金を運用に回す方法もありますが、その場合は以下の配分を目安にしてください:
- 5年分の生活費:現金で確保(約1,500万円)
- 余剰分:新たに運用開始(約500万円)
今日できるアクション:ねんきんネットで65歳時点の年金見込み額を確認し、つなぎ期間に必要な金額を計算してください。
相場が大きく下がったときの判断基準
「NISAを崩したいけど、相場が下がっているから売れない」というのは、多くの方が感じる悩みです。
しかし、この判断にも明確な基準があります。それは「生活に必要かどうか」です。
コロナショック(2020年2-3月)のような大暴落が起きた場合を考えてみましょう。この時、日経平均は約32%下落しました。1,000万円のNISAが680万円になってしまった状況です。
この場合の判断基準は以下の通りです:
売るべき場合
1. 退職金が枯渇している:生活費が確保できない
2. 年金だけでは足りない:月の不足額が明確
売らずに待つべき場合
1. 退職金にまだ余裕がある:1年以上の生活費が残っている
2. 削れる支出がある:月5万円程度の節約が可能
過去のデータを見ると、コロナショック後の回復は約6ヶ月でした。リーマンショック(2008年)の場合は約2年でした。つまり、現金に1-2年の余裕があれば、相場の回復を待つことができるのです。
| 暴落の種類 | 下落幅 | 回復期間 | 対策 |
|---|---|---|---|
| コロナショック | -32% | 約6ヶ月 | 1年分の現金があれば待つ |
| リーマンショック | -42% | 約2年 | 2年分の現金があれば待つ |
今日できるアクション:現在の現金残高で何ヶ月の生活費を賄えるか計算し、相場下落時の方針を決めておいてください。
税金を考慮した最適な取り崩し戦略
取り崩し順を考える上で見落とせないのが税金の問題です。
NISAの最大のメリットは「利益に税金がかからない」ことです。特定口座で同じ運用をした場合、利益の20.315%が税金として引かれます。
具体例で比較してみましょう:
| 投資元本 | 現在価値 | 利益 | NISA | 特定口座(税引き後) |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 800万円 | 300万円 | 800万円 | 739万円 |
| 1,000万円 | 1,500万円 | 500万円 | 1,500万円 | 1,398万円 |
この差額は、NISAを持ち続ける期間が長いほど大きくなります。
ただし、以下の場合は順番を変更することも検討してください:
NISAを先に売る場合
1. 利益率が50%を超えている:大きな利益を確定させる
2. 相場の天井圏と判断される:一時的に利益確定
退職金を先に使う場合(基本原則)
1. 利益率が30%以下:まだ成長余地がある
2. 積立期間が10年未満:運用期間を延ばしたい
年金受給が始まれば月15-20万円程度の収入が確保できるため(厚生労働省2023年データ)、それまでの期間を退職金でつなぐのが基本戦略となります。
今日できるアクション:NISAの利益率を計算し、50%を超えている場合は一部利益確定も検討してください。
まとめ:退職金とNISAの使い分けで失敗しないためのポイント
• 基本は退職金→NISAの順番で取り崩す:運用資産は最後まで成長させる
• 年金受給までの5年間は退職金で乗り切る:月25万円なら1,500万円で対応可能
• 相場暴落時は現金余力で判断:1-2年分の生活費があれば回復を待てる
• NISAの利益率50%超なら一部利益確定も検討:非課税メリットを最大化
• 具体的な金額で判断基準を決めておく:感情的な判断を避けるため
退職後の資産管理は「正解」を求めるより「大きな間違いを避ける」ことが重要です。今回お伝えした基準を参考に、ご自身の状況に合わせて判断してください。
迷ったときは「税金が少なくなる順番」を基準にすると、大抵の答えが出ます。

54歳・会社員。旧NISAから積み立てを続け、気づけば定年まであと数年というタイミングに。いざ取り崩しを考えた時に「出口の情報がない」と気づく。金融庁や証券会社の公開資料をもとに、定年前後の普通の会社員目線で出口戦略を発信しています。


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